二人が岐路につくころ、空にはオレンジ色の夕焼けが広がり始めていた。

助手席に座っていた美貴恵が突然驚いたように声を上げる。

「ねぇ見て。富士山。来るときは全然見えなかったのに」

芳樹はバックミラーで後ろを確認する。そこには夕日に照らされた富士山が雄大な姿を見せていた。

「ホントだ。きれいな富士山が見えるね」

美貴恵はついないでいた手をさらに強く握り締めた。

(この人とずっとずっと一緒にいたい。でも、そこに二人でいる未来は…)

お互いの手の暖かさを感じながら過ぎていく幸せな時間。
美貴恵はこの時間が永遠に続けばいいと思っていた。

しかし、そう思う反面、この幸せな時間がいつまでも続かないとしたら、優しい思い出が増えすぎる前に…。

そう考えると美貴恵の心は千々に乱れるのだった。

ひとりの未来を想像したくはなかった。
しかし二人の未来を示してくれるものもない

交錯する二つの想い。

どちらが正しいのか。
美貴恵にはその道しるべを見つけることができないでいた。