通勤ラッシュが一息ついた駅前のロータリーに車を停めた。

運転席から眺める景色は当たり前のような都会の景色。
駅ビルから延々と流れ出してくる人の列は、オフィスビルへ吸い込まれていく。

目を細めながらその様子を見ている芳樹のそばを、まるで水が流れるように人が通り過ぎる。

(まだちょっと早いか)

ビルの上に光るデジタル時計は待ち合わせ時間の15分前を知らせていた。

この時期にしては驚くほど暖かな日差しが降り注ぐ平日の昼間。
ドアを開け車の外に出ると、心地よい冬の空気を目いっぱい吸い込んだ。

しばらくして携帯電話が鳴る。

「美貴恵さん、おはよう」

電話の向こうから

「おはよう」

と美貴恵が明るい声で答えてくれる。

「澤田さんがいる場所にもうすぐ着くよ」

芳樹は視線を上げ、あたりをキョロキョロ見渡した。
すると電話をしながら歩いていてくる美貴恵の姿が視界に映る。
歩いてくる方向へ早足で向かうのだった。
待つのではなく迎えに行く芳樹。

「車があっちなんです。近くには停められなくて・・・」

申し訳なさそうに言うと美貴恵は

「えー 歩くのー。疲れちゃう。」

と少し口を尖らせて言う。もちろんそれが冗談なのはわかっていた。

「すみません、気が利かなくて。少しだけガマンして歩いてくださいね、1分ほど」

「しょうがないなー。今回だけだよ」

こんな会話をしながら歩く二人の間には、最初のころにあった距離感は消えていた。

(どうしてこんなに居心地がいいんだろう?)

美貴恵は気持ちの中でその答えがずっと気になっていた。