美貴恵が家に着いてから、わずか10分。リビングの電話から呼び出しのメロディが流れる。

「もしもし」
「あっアタシ 帰ってた?」

電話の主はさおりだった。

「あのね、あなたはいったいどこに電話かけてるの? 私が家に帰ってるから電話に出られるんでしょう? 違う?」

 数時間前に携帯に電話をかけてきたときと同じ調子で話すさおりに、半ばあきれた様子で問いかける。

「はいはい、そうです そうです」

さおりはいつものように美貴恵の文句を飄々と聞き流す。

いつもと変わらない、いつものやり取り。なにも起こらない、なにも変わらない。
いつもの友人からの電話。

「あのね、さっき電話した件なんだけど。ちょっとお願いがあるのよ」

「お願いね・・・。それはさっき聞いた。で? どんなこと」

美貴恵にとってさおりのお願いは、珍しいことではなかった。

いつも突然、何の脈略もなく電話口で聞かされるお願い。

(どうせまた今回も驚くほど単純で、どうでもいいお願いに決まってる)