あまり乗り気ではなかった雑誌モデルの仕事を手伝ってから数日後。
久しぶりに何の予定もなかった美貴恵は、買い物がてら街をぶらぶらしてみようと思っていた。

久しぶりの外出。
かわいいコートの一着でも見つけようと、ちょっとウキウキしていた。
家の用事を済ませ、あとは着替えるだけという時になって携帯が鳴る。

(またさおりじゃないでしょうね)

そこには見慣れない番号からの着信。

「もしもし」
「あ、澤田です」

その声を聞いた瞬間、少し緊張したのが自分でもわかった。
そして、初めて電話がかかってきたときと同じようになかなか次の言葉がなかなか出てこない。

今回も美貴恵の心境を察したかのように、芳樹はゆっくりと話し始める

「今、電話大丈夫ですか?」

「あ、は、はい大丈夫です」

「この前はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」

「で、この前撮影したページができたので、発売前に吉里さんに持っていきたいんですが。
スケジュールはいかがですか?」

「ちょっと待ってくださいね」

壁にかけてあるカレンダーに視線を移し、数字をすばやく追いかける。

(12…13…14…)

もちろんこの電話が、雑誌が完成したから渡したいという、いたって事務的な用件なのはわかっていた。
しかし電話で芳樹の声を聞きながら鼓動が少し早くなるのを感じていた。