「疲れましたか?」

「あ、・・・そうですね。初めてなので」

「そりゃ緊張しますよね。スタッフだって多いし。でもカメラマンが言ってましたよ。レンズ慣れしてるって」

「えーーーーっ。なんですかレンズ慣れって?」

美貴恵ははじめて聞く言葉に思わず聞き返していた。
すると芳樹は缶コーヒーを差し出しながら

「雑誌とか見るとプロのモデルさんは、みんなきれいに写っているでしょう? アレってカメラマンの腕もあるんですけど、実はモデルさんが作る自然な表情が一番大切なんですよ。」

と教えてくれた。

「へぇ」

美貴恵は感心したように大きくうなずく。

「普通の人がカメラの前に立って一番難しいのってなんだと思います?」

芳樹はいたずらっぽく笑いながら問いかける。

「うーん ポーズ・・・とか?」
「ざんねーん。一番難しいのは自然な笑顔なんです。意識するとホラ、引きつった笑顔になったり、不自然な表情になることが多いんですよね。」

そう言って芳樹はちょっとおどけた様子で顔を引きつらせて見せた。


「笑顔ねー」

「吉沢さんは自然に笑えてたんだと思いますよ。だからカメラマンもレンズ慣れしてるって。普通はなかなか笑えないんですから」

「そうなのかなぁ?私、ずっと緊張してただけだからなぁ。澤田さんだって見ていたらわかるでしょう?」

「うーん、僕は全然気にならなかったですけどね。見ていてとってもきれいな写真が撮れそうだなって感じましたけど」

「すみません 私なんかで」

「なに言ってるんですか。バッチリですよ。素人さんとは思えないです。大丈夫です。」


美貴恵はついさっきまでモデルの仕事を受けてしまったことを後悔していたが、撮影が進むにつれて、その気持ちは徐々に消えていくのを感じていた。