そのころ美貴恵は外出先から自宅に向かう電車の中から、流れてゆく街の光を眺めていた。

(今日か明日、今回の撮影を仕切ってくれるサワダヨシキさんっていう男性から連絡が入ると思うのね。その彼に全部任せてあるから、色々聞いておいて)

さおりからそんな電話がかかってきたのが今日の午前中。

(そんなこと言ったって、だいたいそのサワダって誰なのよ。何者? 何を聞けっていうのよ)


断ったのに無理やり説得されて、気が付けば経験もないのに、にわかモデルに仕立て上げられた。

美貴恵にしてみれば、踊れもしないのにダンスの舞台に引っ張りあげられたようなものだ。

もちろん自分で希望したわけでもモデルをやってみたかったわけでもなかったのだから、当然の感情だった。