―事故から数日―

美貴恵の心の中には何もなかった。
ただ、真っ白な空間が広がっているだけ。

感情を持たない人形のように、ただ座っていた。
美貴恵ができることはそれだけだった。

食欲などあるはずもない。
朝も昼も夜もひたすら泣き続けた。

一人になると気が狂ってしまうのではないだろうかと思えるほどの、虚無感の中を、ただ漂うばかり。


(神様、どんなことだってしますから。芳樹を返してください・・・)


鳴らない電話
来るはずのないライン
既読にならなかったメッセージ

(誰か私のこと壊してくれないかな・・・)

本当の気持ちだった。

そして、その気持ちを無視するように、なんの変化もない一日が繰り返される。

誰とも会いたくない、誰とも話したくない

そう思って過ごす美貴恵に、さおりからの一本の電話がかかってくる。


声を出すのも辛かった。
それでもさおりには事故当日のお礼も言っていないことを思い出し、携帯を手に取った。

「もしもし」

あの日、記憶はなかったが、病院へ向かう途中、無意識でさおりに連絡したことも後で知ったことだった。


「美貴恵・・・あなたに渡したいものがあるんだけど」

「渡したいもの?」

「うん、これからそっちに行っても大丈夫?」

「いいよ、待ってる」

携帯を膝の上に置いて天井を見上げる美貴恵。

何も思わなかった
何も考えなかった

すべてがなくなってしまったから。