大志が合流してから三人は大いに盛り上がった。
仕事のことはもちろん、事務所の今後、学生時代の思い出話まで、気が付けば入店から5時間。

「そろそろお開きにするか」

そう言って芳樹は、お会計の合図を店員に送る。

「ごちそうさまっす」
「ごちそうさま」

三人は店を出て駅の方向に歩き出した。

改札口につくと、帰り道が逆方向の大志は、少し大きな声で話し始める。

「今日は楽しかったっす。ごちそうさまでした」

「ああ、明日はちゃんと遅刻せずに来いよ」

「了解っす」

「じゃあね、大志君」

「はい、おやすみなさい」

大志は勢いよく、階段を駆け上がり視界から消えていった。

「元気だよねぇ、大志君」

「だな」

芳樹と紗江は、並んで帰り方面のホームへと歩いてゆく。
終電までは、まだ少し時間があるホームに人影はまばらだった。

「座ろっか」

紗江が芳樹の袖を引っ張って、ベンチへと連れて行く。
何も言わずについていく芳樹。

ベンチに座ると紗江は、バッグからペットボトルを取り出して一口飲んだ。

「はぁ、久しぶりに楽しかったな。ちょっと飲み過ぎちゃったけど」

「そうだよ、すぐにジョッキ2杯なんて、紗江にしちゃ早すぎ」

「だよね」

「明日、寝坊しないようにな。紗江の会社、定例会議だろ?朝から」

「うん」

これまで、二人の間に沈黙が流れることはほとんどなかった。
普段なら、他愛ない内容でも会話は繋がっていたに違いない。

でも、今夜は少し違っていた。