数回の呼び出し音。つながる電話。

「もしもし」

「あっ、芳樹! さっきは仕事中だった? ごめんね。でもビックリだよねー。こんな偶然あるんだね」

紗江は芳樹の言葉を待たずに話しはじめた。
6年ぶりの会話。

わずかな緊張はすぐに消し飛んだ。

「オレもビックリした。まさかって思ったし。でも、あの場面で、いきなり知り合いですって言えないよな」

「そうそう、私も同じ。あのあと佐々木部長が芳樹のことずーっとベタ褒めだったよ」

「そうなんだ、そりゃ嬉しいね」

「これからまた仕事、一緒にするんだね」

「まぁ、そう言うことだよな」

「何年ぶり?4年?5年?」

「忘れるくらい振りじゃない? 何年だっけ? でもまぁ、せっかく久しぶりに会ったんだから、今度メシでも行こう」

「ホントに!! 嬉しいなぁ。なんか久しぶりだからドキドキする」

紗江は、嬉しい気持ちをストレートに表現することが多かった。
そんな素直なところに惹かれていたことを、思い出させてくれるやり取りだった。

「芳樹は大丈夫なの?」

「何が?」

「いや、ほら。芳樹は彼女がいる時は、絶対女の子と二人で食事とかしない人だったじゃない?」

「は? 普通、彼女がいたって仕事相手とは食事するだろ。」

「そうだよね! そうだった仕事相手だった、でも元カノだけどねー」

電話の向こうではしゃいだように話す紗江の声が懐かしかった。

「まぁ、芳樹の話は食事の時に聞かせてよ」

「オッケー、じゃあ、あとでスケジュールをラインしておいて。今週後半なら合わせられるし」

「うん、そうするね」

そして数日後、二人は都内のレストランにいた。