先生がいてくれるなら③【完】


退院が決まってすぐに高峰さんと話をした時、退院時は誰も来ないって言っていた。


彼女のご両親はともに仕事が忙しいらしい。


それと、高峰さんからはご両親のことを『私の事なんてどうでもいいみたい、ちゃんと跡さえ継いでくれればね』って聞いていた。


お母さんが来られていると言うことは、きっと、お母さんにとって彼女はどうでも良いわけじゃないに違いない。


それに、高峰さんが退院をちゃんとご家族に報告していた事も嬉しかった。


これから彼女の夢を実現するために、家族と話し合うことは避けては通れない。


退院の報告は、その取っかかりでもあるだろうから。



「荷物、これで全部?」

「……うん」


まだ怪我が100パーセント治ったわけでは無く、これからまだ少しリハビリをしなければならない彼女にとって、退院時の荷物をひとりで全て持つのは大変だ。


だからこそ、疎まれてもお手伝いしようと思ってやって来たわけだけど……不要でしたね。


私の出る幕がない方が良いに決まってる、だから私はとても嬉しかった。


「じゃあ、私は退院の手続きをして来るから。下で待ってるわ」


彼女のお母さんはそう言って、私に軽く会釈をして、荷物を持って病室を出た。