先生がいてくれるなら③【完】


* * * * *

高峰さんの退院の日がやって来た──。



「高峰さん、退院おめでとうございます」


私はそう言って、小さなブーケを彼女に手渡した。


「……お金の無駄でしょ」


そう言って私を白い目で見ながらも、差し出したブーケを受け取ってくれる。


「無駄じゃ無いです、気持ちです」

「ほんと、おめでたい人」

「えへへ、ありがとうございます」

「褒めてない」


高峰さんの態度は相変わらずだけど。


でも、その表情が彼女の気持ちを全て物語っていて……私は思わず嬉しくなった。


迷ったけど、ブーケを持ってきて良かった。


──高峰さんの顔は、ほんのりと赤くなっていたから。



「準備は出来てるの?」



私の後ろ──ドアの付近から、女性の声がした。


私がその声に少し驚いて振り向くと、そこにはとても綺麗な40代後半ぐらいの女性が立っていて──それが高峰さんのお母さんだとすぐに分かった。


私は彼女のお母さんに「こんにちは」と挨拶をすると彼女のお母さんは驚いた表情で私を見つめ「え、あぁ、こんにちは……」と、少しだけぎこちなく返した。


きっと高峰さんには怒られると思うけど、私は「後輩の立花です」と自己紹介しておく。


案の定、彼女からは怒りのオーラが漂うけれど、気にしない気にしない。


だって私はいまとても気分が良いから。