先生がいてくれるなら③【完】


「孝哉の父──朔哉(さくや)は、子供を授かったことで、まだ大学在学中ではあったけれど恵美子と結婚をした。だが……、朔哉は……、」


そこまで言って、教授は言い辛そうに言葉を一度切った。




「──交通事故で、亡くなったんだ…………」




あぁ、

何と言うことだろう……。




私は時々思うことがある。


神様なんて、やっぱりいないんだな、って。


神様が本当にいたとしたら、こんな残酷なこと、起こったりしないんじゃないかな。


愛した女性とお腹の中にいる我が子を残して、死にたいと思う人なんかこの世の中にはきっといない。


生まれてくる日を心待ちにしていただろうし、これから楽しいこと嬉しいことがいっぱいで、夢と希望に満ちあふれていたに違いないのに──。



「朔哉を失った恵美子は、心を患ってしまってね……」



それは当然だろう。


愛する人を亡くし、お腹の中に小さな命を抱え、……きっと絶望しただろうと思う。


私だったらそんな事、耐えられるだろうか……。



そんな状態の親友の恋人をひとりに出来るはずもなく、教授はすぐに結婚を申し込んだそうだ。


お腹の子の父親になるから、と。


お腹の中の子を含め、身体のことも、生活のことも、何もかもを教授が面倒を見るから、と──。



そして、教授はとても悲しそうな目で私を見つめて、驚くような言葉をポツリ、と零した。






「妻は、心が壊れてしまって、……孝哉を産んだことを、覚えていないんだよ」






────覚えて、いない、


それほどまでに、心が…………