「……でも、なぜですか? お父様が違うと言うことを隠さなければならない理由が、私には分かりません」
「そうだね、“父親が違う”と言うことだけなら、隠す必要など無かったよ」
藤野教授は、少し悲しそうに顔を顰めた。
「──孝哉の父親は、私の──私と妻の、親友でね…………」
藤野教授は、ポツリ、ポツリと、語り始める。
教授と孝哉先生の本当のお父様とは、高校生からの親友だったそうだ。
高校を卒業した二人は同じ大学に進学し、教授は医学の道に、親友は数学の道に進み、学部や学科は別々となったけれど親友という関係は変わらず続いていて、よく一緒に勉学に励んでいた。
その頃、二人はよく通っていた喫茶店でアルバイトをしていたふたつ年下の女の子──現教授夫人である恵美子さんと知り合い、三人はすぐにとても仲良くなったそうだ。
男性二人が恵美子さんに想いを寄せるようになるのにそう時間はかからず、それでも三人はよく一緒に過ごしていた。
長く続いたそんな関係だったけど、そんな穏やかな日も、ある日を境に一変する。
親友と恵美子さんが恋仲になり、子供を授かった──。



