そして、ようやく、その重い口を開いた──。
「なぜ、それを、……」
その声は少し掠れていて、弱々しい。
いつもの、優しいけれども威厳のある声では無い。
私は、あぁ、やっぱり、と思った。
「……最初は、ほんの小さな違和感からで……」
私は順を追って話をしていく。
そう、最初はとても小さな違和感だった。
初めて食事会に招いてもらった日、初めて藤野家の全員を目の前にして感じた、違和感──。
三兄弟のうち孝哉先生だけが母親が違うと聞かされていたけど、初めて教授夫人にお会いして感じた、小さな小さな、何かに気を取られた瞬間に忘れてしまうほどの、些細な違和感。
三兄弟と、夫人──。
光貴先生と広夢さんは夫人の実の子だからこの三人が持つ雰囲気が似ているのは当たり前。
だけど……孝哉先生とも、とても、とても良く似ている。
夫人が育てて、何年も一緒に暮らしてきたのだからそれは当然のことなのかも知れないけど、それだけではどうにも説明できない何かが間違いなくそこにあって……。



