先生は昨日、電話で「お前の泣き顔をちゃんと見たいから、前髪上げて行く」とか言って私をからかったので、「泣きませんからっ」と、一応強がっておいた。


とは言うものの、多分、泣いちゃうだろうな……。


それで、先生に『やっぱり泣き虫だな』って笑われちゃうんだよね、きっと。



──教室で担任の先生から最後の諸注意を聞き、整列して体育館へ入場する。


少し前まであんなに騒がしかった2組の生徒たちは、私たち3組よりも一足先に入場を終え、いまは静かに着席していた。


生徒席の横前方に教職員の座る席があり、藤野先生が着席しているのが見える。


式典用の黒いスーツに黒いネクタイ、前髪を良い感じに横に流して目が見えるようにセットし、いつも学校でかけているのとは違う眼鏡をかけていた。



……あの眼鏡、私が先生の誕生日にあげたやつだ……。



一瞬チラリと見えただけなのに思わず頬が赤くなるのを隠せない。


生徒全員が前を向いて座っていて、本当に良かったと思う。



……先生、今日は格別に格好いいです。



きっと他の生徒は皆、神妙な面持ちで座っているに違いないのに、私は頬が緩むのを止められない。


緊張しすぎて頬が引きつっている、と言うことにしておいて欲しい。