ある日曜日の昼前のこと……。
私は自宅最寄り駅前にある洋菓子店で手土産を買い、お店を出たところだった。
「あれっ、立花さん。こんにちは」
不意に声をかけてきたのは──細川先生だった。
「こんにちは、……」
挨拶の後が続かない私に、細川先生は苦笑いする。
だって、挨拶以外言うことないし、私は今それどころじゃなくて……。
思えばこの先生は、私の心に余裕が全くない時に限って現れるなぁ、ホントに。
「もしかして今からデート?」
は? デート?
私が首を傾げると「いや、おしゃれしてて可愛いから、デートかなって」とニッコリ笑いながら言う。
か、可愛いかどうかは別として……おしゃれをして出掛けてきたのには理由がある。
それは……
「おまたせ。遅くなってごめんね、明莉さん」
眩しいキラッキラの笑顔で声をかけてきたのは、藤野家の三男、広夢さん。
「いえ、大丈夫です。私もさっき来た所ですから」
私がそう返すと、広夢さんは細川先生を一瞥する。
「……知り合い?」
「あ、高校の先生です……」
私がそう答えると広夢さんは「そうなんだ」と呟いたあと「明莉さんがいつもお世話になってます」とニッコリ微笑みながら挨拶をする。
えっと、広夢さん、なんか誤解が生じそうな危うい挨拶はやめていただいて良いでしょうか……。
広夢さんの挨拶に、細川先生は「いえ、こちらこそ」と、広夢さんに負けない笑顔で返していて、二人はニッコリな表情のまま睨み合っている。
笑顔のまま睨み合うとか、なんかシュールなんですけど……。