私がゆっくりと頭を上げると、細川先生の手がやっと離れてくれた。


──だけどその代わりに、全く遠慮することなく私の顔を覗き込んでくる。


私は細川先生を一瞥だけして、すぐに視線を反対側に向けた。


「立花さんの好きな人って、同じ学校の人じゃないんだ?」

「……」

「学校が違うなら一緒に見れないもんなぁ」


この人の話の意図がよく分からないけど、私は少しだけ顔を下に向け、小さく頷いたように見せた。


下を向いただけにも、頷いたようにも、どちらにも取れるように……。


ずるい手だけど、私の想い人が藤野先生だとバレるよりはずっと良い。


校外の人が好きだと思い込んでてくれた方が、きっと安全だ。



「……そっか、好きな人は、他校の人、か……」



細川先生の問いには答えず、私は再び少し俯いた。



校庭のスピーカーから聞こえる声が、仕掛け花火に点火をするためのカウントダウンを始める。


脳裏に去年の光景が映し出され、私はそっと唇を噛んだ。


今頃藤野先生は数学準備室にいるだろうか……、なんて、やっぱり考えてしまう。


あんな酷い言葉を投げつけた私の事を思い出したりしていなければ良いけど……。