「もう一回だけ、キスさせて……」



練習なんて、ウソだ。


全部、俺の都合。


大人のキスをしてやれないのも、“練習” と言って、お前の唇を何度も奪うのも、全部……。


ごめん、と心の中で謝る。


いつか色々全部、ちゃんと言葉にするから、少しだけ待って。


今はあまりにも忙しくて、更に他にもいっぱい考えなきゃならないこともあって、ゆっくり向き合える余裕がない。



──目を瞑って俺の口づけを待つ立花に、ゆっくりと唇を寄せる。


優しく触れた立花の唇はやっぱりとても甘く柔らかくて、眩暈がしそうだった……。



結局、上手に呼吸できないまま終えた触れ合うだけのキス。


別れている間は触れることすら出来なかったことを考えると、ただ唇を重ねるだけのキスでも、俺にとってはとても嬉しい行為だった。


立花にとってもそうであったら良いなと思う。



上手く呼吸が出来なかった立花は、少し落ち込んだ様子で俺に謝ってきたが、そんな必要は無い。


焦る必要なんか、全然無いよ。


そんな風に背伸びしなくたって、いつか必ず大人になるんだ、嫌でもね。


だから、焦らなくていい。


ゆっくり、大人になればいい────。