「ほ、細川先生……、びっくりさせないで下さい」



私は顔を半分膝に埋めたまま、細川先生への不平を口にした。


この部屋の鍵をかけなかったことを、心の底から後悔した。



細川先生は「ごめん、驚かせるつもりは無かったんだけど……」なんて言いながら、なぜか私のすぐ隣にしゃがみ込む。



以前に一度、『もう私に構わないで下さい』と言ってから、この人が私に構わなくなったかと言うと、それはNOで。


滅多に顔を合わせる事は無いけど、顔を合わせるとこうやって私に絡んで来る。


他に生徒がいる時はニッコリ笑いかけるぐらいだけど……、



「……もしかすると、泣いてた?」



ふたりきりだと、遠慮が無い。


私が否定も肯定もしないで立てた膝に顔を埋めていると、細川先生の手が私の頭にふわりと乗った。


そのまま優しく撫でられ、私は顔を上げるタイミングを完全に失ってしまった事をとても後悔した。


さすがに、振り払えない……。



「花火、見に行かなくて良いの?」



そう声をかけてくる細川先生に、私は膝に額を押しつけたまま頭を横に振る。


「“二人で花火を見られれば一生別れない”、だっけ? 立花さんは誰かと見たいんじゃないの?」

「……」


この人は、どうしてそう言うことを言うのかな……。