先生がいてくれるなら③【完】


少し困った表情をしながら私を見つめていた先生は、私の髪を優しく梳いて、「そんなに急に大人にならなくて良いよ」と苦笑した。


私が首を横に振ると、先生はますます困った表情になる。


困らせたいわけじゃない、だけど……。


「……ダメ、ですか?」


先生の顔を下から覗き込むように窺うと、先生は、はぁ、とため息を吐いた。


「ダメなわけじゃないよ、でも、お前を怖がらせたくないから……」

「大丈夫、です、怖くない」

「……ごめん、嘘ついた。訂正。俺が、怖い。お前を傷付けそうで」


ため息をもう一度吐いた先生は、私の額に自らの額をコツンとくっつけた。


「多分、俺が我慢できなくなって、お前をめちゃくちゃにしそうで、……だから、怖い」

「……先生」

「お前が高校生のうちはキスまでしかしないって、前にも言ったと思うけど……いまそう言う深いキスをしてしまうと、多分、キスだけじゃ済まなくなる。最後まで求めて……全てを奪ってしまう。俺は、それが、怖い」


先生は本当に困った表情をしていて、先生をここまで苦しませてまでしなきゃいけない行為ではない、そう思うけれど……。


私の中でも、『このまま、今以上のことはしない方が良い』と思う気持ちと、『やっぱりもう少し進みたい』と思う気持ちがせめぎ合っていて、どうにも収拾が付かなくなっていた。


心の中の葛藤を、言葉にする事も出来ないし、だからと言って収めることも出来ない。