「じゃあ、デート出来るのは今のうちだけってこと?」
「……そうかも、知れないですね」
「じゃあ、寂しい思いをするね」
「……どうでしょう、先のことは分かりません」
あぁ、広夢さん、早く来て下さい~。
……なんで私、こんなに早く来ちゃったんだろう、後悔しかない。
「そうだ、ひとつ聞いて良い?」
「……なんでしょう?」
「うん、……後夜祭の時のこと。あの時……泣いてたでしょ?」
「……」
「あの時の立花さんの “想い人”って、今の彼?」
あの時は、薄暗い場所だったから、俯くだけでなんとか誤魔化せた。
でもここでは、とても同じ手を使って誤魔化すことは出来そうにない。
隣から遠慮なく私の顔を覗き込んでくる細川先生となるべく目を合わせないように、私は小さく、とても小さく頷いた。
広夢さんの許可は取ってある、だから問題は無いけど、嘘を吐くのは、私の心が、しんどい。
「そっか、……じゃあ、うん、良かったね、上手くいって」
「……は、い」
その後、ひと言ふた言話したあと、広夢さんが到着し、細川先生とは前回と同じような挨拶をして別れた。
ほんの数分間だけど、こんなにも疲れる数分間は初めてだ。
それでなくても食事会のことで緊張してるのに……。
これからはこの駅前で待ち合わせるのはやめよう、と心に固く誓ったのだった──。



