先生がいてくれるなら③【完】


細川先生が何を考えているのかはよく分からないけど、特に何の思いも無い異性から好意を持たれるのが、こんなにも面倒なことだとは思いもしなかった。


私は心の中でこっそりとため息を吐いた。


しかも、なぜか「じゃあ彼氏が来るまで、時間潰しに付き合うよ」なんて言って、私の隣りに座ってしまった。


なぜ、どうして、こんな事になってしまったのか……。



藤野先生の、『なんで懐かれてんの?』と言う問いかけが、私の頭の中をリフレインしている。



ヤバイ、怖い……。


藤野先生に知られたらマズイ、怖すぎる、絶対に悪魔が降臨する……。



「めずらしく、今日は雨じゃないね」

「……そう、ですね」

「立花さんが雨女なんだと思ってたけど、立花さんは俺が雨男だと思ってたんでしょ?」

「……はい」


気のない返事をしてるのに、細川先生はそんなことお構いなしに、ニコニコと話を続ける。


この人のメンタルは、鋼かな、鋼なのかな。


「医学部って、忙しいんじゃないの? あまり会えないんじゃない?」

「……そうでもないです。むしろ学生の今の方が、時間があるんじゃないかって言ってました」

「ふうん、そうなんだ」


光貴先生みたいな研修医の方が、ずっと自分の時間が取れないのだそうだ。


当直になってなくても病院に泊まり込むことが多いらしく、光貴先生は週に1~2回しかマンションに帰っていないとか。


研修医の内情はよく分からないけど、でも、あまり帰れていないのは、光貴先生の “頼まれた事は断らない” という性格も関係している気がする。