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9月の、第一周目の日曜日──。
藤野家の食事会にお呼ばれするのは、これで何度目だろうか。
もう何度も招いて頂いているけれど、なかなか慣れそうに無い。
光貴先生も広夢さんも「緊張しなくて良いからね」と言ってくれるけど、無理です、無理。
前ほどガチガチでは無くなったけど、今でもお箸やフォークを持つ手が震える、と先生に正直に伝えると、先生は首を傾げながら笑ってた。
ひどい。人ごとだと思って。
挨拶や食事のマナーを脳内で何度も反芻しながら、私は自宅の最寄駅前で、広夢さんが来るのを待っているところだ。
先生の顔が一部の女子達にばれてるから、私たちは前よりもずっと慎重にならざるを得なくなった。
お食事会である今日も、先生と一緒にいる所を誰かに見られるのはまずいので、広夢さんが迎えに来てくれることになっている。
先生からは『手土産なんか必要ない』と言われているけれど、やはり手ぶらでお邪魔するのは忍びない。
私は駅前の洋菓子店で手土産を買って、広夢さんとの待ち合わせの時間まで、駅前のベンチに座って時間を潰していた。
緊張をほぐすためにスマホで音楽でも聴こうと、手元の画面に目を落とす。
すると、不意に目の前に人が立つ気配がして、私が顔を上げると、そこによく知った顔があった。



