「あの、その節は本当にありがとうございました。数学、お詳しいんですね」
「高校生の時は数学が一番得意だったから」
「そうなんですね。あ、でも、あれは高校数学の域を超えてますけど……」
「ははは、そうだね、超えてるねぇ」
楽しそうに笑うその人は実はとても美しい顔立ちで、なんでいつも変な眼鏡をかけてるんだろうって疑問に思う。
──と言うのも、去年も、なんか……おじいちゃんがかけてそうなダサい縁の眼鏡をかけていて、今日は少し違う形だけど、やっぱりなんかイマイチな雰囲気の眼鏡をかけているのだ。
私が眼鏡をじろじろ見ていたからか、その人は「あ、この眼鏡、変装だから気にしないで」といたずらっぽく笑った。
あ、そうなんだ。
「……すみません、とても格好良いのにいつも変な眼鏡かけてるから、てっきりそう言う趣味なのかと思いました……」
私が正直にそう答えると、その人は大爆笑している。
「えっと、す、すみません、失礼すぎました……」
「あはははは、いいよ、気にしてない。あはは、さすが爆弾魔だねぇ」
──え?
「あ、そうだ。俺の名前、言っておくね。俺はね、岩崎(いわさき)って言うの。この学校に知り合いがいて、今日は招待してもらったんだよね」
「岩崎さん、ですね。あの、私は──」
「あ、待って、ストップ! だめだめ、男に簡単に名前教えたら。言わなくていいからね!」
岩崎さんは自らの口の前で両手の人差し指でバツを作ってニッコリ笑った。



