しばらく泣いて、やっと涙が止まった頃──。
「ごめん明莉さん。絶対に触れないから、ちょっとの間、そのまま動かないで」
広夢さんが急にそう言って……私に顔をゆっくりと近づけた──。
──えっ?
戸惑う私の耳元で、広夢さんが囁く。
「反対側の歩道……あの人がいる」
変に動かないように気を付けながら、私は広夢さんが指摘した方へと視線をゆっくりと移す。
……確かに、細川先生らしき人影が見えた。
私が思わず息を飲んで小さく頷くと、広夢さんは「ごめんね」と謝りながら、さきほど私に言った通り私に全く触れることもなく、そのままゆっくりと離れた。
「きっと明莉さんが心配になって、様子を来たんだろうね」
私が少し困った顔をすると、「今ので諦めてくれたら良いんだけどねぇ」と、広夢さんも少し困った表情になった。
多分、遠くに立ってる細川先生からは、私と広夢さんがキスでもしているように見えたはずだ……。
「夏休み中……って言っても、もうあと10日ほどで終わるけど、その間は僕が迎えに来るね」
ニッコリ微笑む広夢さんに、私は「えっ……?」と返した。
「孝哉兄さんも忙しいんだろうけど、ちゃんと話をした方が良いよ。少し前までしばらく離れてたんだし、色々話し合った方が良いと思う」
「それは……そうですけど……」
「僕はもともと今月いっぱいは光貴兄さんの所にいる予定だから、気にしないで足に使って」
「えっ、で、でも……っ」
それでは、あまりにも申し訳ない。



