「……大丈夫?」
「……先生を、怒らせちゃいました……」
「うん、まぁ……、言わなきゃ言わないで、きっと怒るから、仕方ないよね」
「細川先生の口から伝わる前に、と思ったんですけど……」
「うん、それは正解だと思うよ。他人の口から聞くのは最悪だからね」
「はい……」
広夢さんは「送って行く」と言って床から立ち上がったので、私も立って帰り支度をした。
手持ちのメモに、冷蔵庫と冷凍庫に入れた食材の説明を簡単に書いて、テーブルに置く。
帰り際に、先生が籠もっているだろう寝室に向かって声を掛けたが、返事は無かった。
──私の自宅へと向かう広夢さんの車の中で、「過呼吸、よくなるの?」と細川先生と同じ事を聞かれ、思わず苦笑した。
「いえ、昨日が初めてです」
「そう、じゃあびっくりしたでしょ」
「はい……。あの、ちょっとでも光があると大丈夫なんですけど、どうも真っ暗闇がダメみたいで……」
「そっか。……兄さんは怒ってるけどさ、僕は、自宅じゃなくて、誰かが傍にいる時で良かったと思うよ」
それは私も、自宅に戻って冷静になってから同じように思った。
きっとひとりで自宅にいる時だったら、もっとパニックになってたと思う。
私がコクリと頷くと、思わず涙がポロッと零れ落ちてしまった。
そしてその涙は、なかなか止まることがない。
車はとっくに私の家の前に止まっていたけど、私が泣き止む事が出来ないので、広夢さんがじっと私が落ち着くのを待ってくれていた。



