先生がいてくれるなら③【完】


「停電して……、真っ暗になって、私、“あの時” のことを思い出してしまって……」

「あの時……?」


完全に黙り込んでしまった先生の代わりに相槌を打ってくれたのは、広夢さんだ。


「あの、私、去年、真っ暗な倉庫に閉じ込められて……その時の事を思い出して、怖くなって……」


広夢さんはこの話、誰かから聞いているだろうか。


さすがにあの時の話まで説明するのは時間がかかるので、省かせてもらうことにした。


「それで、過呼吸になって……」

「……あぁ、PTSD……」

「はい、多分……」

「そう、怖かったね、大丈夫だったの?」

「……はい、あの、細川先生が対応してくれたので……」


細川先生の名前が出るたびに、先生の顔がどんどん険しくなる。


そのうち鬼瓦にでもなるんじゃないかな……。



「あぁ、前に駅前で会った先生だよね。近くに住んでるってこと?」

「はい……最寄り駅が一緒で、駅からすぐのアパートに住んでて……」

「そうなんだ」


最早、話をしてくれるのは広夢さんだけ。


ほとんど鬼瓦みたいになってる先生は、怒りボルテージをひとりでどんどん上げて、完全に黙り込んでいる。



「ね、聞いて良い? その先生って、明莉さんの教科担任か何か?」

「いいえ、違います」

「じゃ、共通点は、どこ?」


ふいっ、と首を小さく傾げる広夢さん……、可愛格好いい、とか変な日本語作が私の脳内を意味も無く駆け巡る。


あざと格好いい、でも良いかも。


現実逃避したくなった私の脳味噌が、激しくどうでもいい考えで脳内を満たそうとしている……。