長い沈黙が流れる中、信号が青に変わる。
俺は渋々、再び視線を前へと戻してアクセルを踏み込んだ。
「もう、以前のようには戻れないのか……?」
俺は堪らず、そう口にした。
だが、返事は返って来ない。
──そうか。
お前が何も言わないなら、俺にも考えがある。
俺が納得いく返事を貰うまで放す気は無い、覚悟しろ。
俺は、立花の家の方向には向かわずに俺の住むマンションへと車を向けた。
途中までは同じ道のりだ、さぁ立花、どこで気付く?
車は確実に俺のマンションへと向かっている。
いつもとは少し違う道を通れば、直前までは気付かないはずだ。
ただ問題は、マンションのすぐ近くにある信号だ、あの信号を通らなければマンションの駐車場へは入れない、それなのにあれはいつも必ず決まったタイミングで赤になる。
あそこでほぼ確実にひっかかる事は、立花もよく知っているはずだ。
だが──そこまで行けば、もう俺の家に行くしか無いから。
強引にでも連れて行く。
──どこで気付くかと思ったけど、いくら土地勘があるとは言っても、車の免許を持ってるわけではない立花がそんなに早く気付けるわけもなくて、結局俺が予想していたよりずっと遅いタイミングで道が違うことに気がついた。
それは、もう少しでいつもの信号……と言う場所だった。
お前、相変わらず危機感ねぇな。
そう言う危ういのは、俺の前だけにしてくれよ?
焦って俺の方に向き直る立花に視線を送りつつ、あぁやっぱり、信号は青から黄色へ、黄色から赤へと無情にも変わる。
車は減速し、赤信号で停車した。
と同時に、隣からカチン、と音が聞こえる。
──おっと。
何してくれてんだよ、お前。
立花が自らのシートベルトを外そうとしたので、俺は慌てて立花の手をギュッと掴んだ。
「逃げるなよ……」
それに、いくら信号が赤で車が停車してるからって、降りたら危ねぇだろ。
俺は、シートベルトを握ったままの立花の手を掴んだまま、再びその金具をホルダーへと差し込んだ。
強く握ったから立花が少し痛そうにしているが、離してやる気は無い、逃げられてたまるか。
立花はゆるりと頭を振って、「分かりました。降りませんから、手を離して下さい」と言ったが、また降りようとされても困るので、ギュッと握ったままで信号が青になるのを待った。
信号が青に変わり、立花の手を離す。
──痛かっただろうな。
でも、俺はどうしてもお前と話をしておきたいんだ。
アクセルをゆっくりと踏み込み、駐車場へと向かった。



