先生がいてくれるなら③【完】


立花は潮の香りに誘われるように、このすぐ先にある公園へと歩いて行く。


綺麗に整備された公園のすぐ向こう側は、海だ。


一人で考え事でもしてるんだろうなぁ。


……しかしこの暑い中、あいつ、大丈夫かな。


まさか熱中症でぶっ倒れたりしないだろうな。


あまり遅かったら、見に行くしかないか……。



そう考えながらも、もう一度携帯をコールしてみる。


出ないんだろうな、と半分諦めながら耳に当てると、突然コール音がブツリと切れた。


その後は何度かけても『電波の届かない場所にいるか、電源が入っていないため……』と言う例の味気ない声が返って来るばかりだ。


くそっ、電源落としやがったな、あいつ……。


俺からの着信履歴を全無視しやがって。泣くぞ。



ムッとしながら車の外に出ると、公園の方からこちらに歩いて来る立花の姿が見えた。


俺に気付いて、一度立ち止まる。



「電源落とすこと無いだろう」



俺がちょっと不機嫌な声でそう言うと、立花は眉根を寄せた。


そんな嫌そうな顔するなよ……さすがに俺だってそろそろ傷つく。



「立花、話がしたいんだ。頼む」


俺がそう言っても、立花の表情は変わることはなかった。


でも、俺だってこのまま引き下がるわけには行かない。


「お前に話さなきゃならない事がある。だから──」


俺がそう言うと、立花はやっと俺のすぐ目の前まで歩いて来て「私から話すことは無いですけど、先生の話を聞くだけなら」と言った。


うん、それで良いよ、とりあえずは。


もちろんそれだけで解放なんてしてやらないけど。