そして辿り着いた8階フロア。
1年前と変わらず受付にいたのは2期上の田町さん。以前の私と同じ総務部でずっと受付を担当している、気さくなお姉さん的存在だった。

噂が出回った頃は『事実と違うなら気にしちゃダメだよ』と言ってくれていたけど、賢治が反論しなかったせいか、噂が真実味を帯びてくると、私に対する態度がよそよそしくなった。
明らかに避けたり陰口を言っている人がいる中、田町さんの態度はまだマシな方だったと思う。

「中原さん?」

彼女の視線が受付をした友藤さんを飛び越えて私に固定される。
気まずさよりも驚きが勝っているらしく、それ以上言葉が出て来ないようだった。

友藤さんも彼女が私の名前を呼んだことに驚き、振り返りながら知り合いなのかと尋ねてきたので、話していなかった罪悪感や退職した経緯を知られたくない虚栄心から小声で元職場だと白状した。

そこからはもう怒涛の展開だった。

まさか賢治が営業から総務に異動していて健診の担当をしているなんて思わなかったし、美香がなりふり構わず仕事の打ち合わせ中に乗り込んできて喚き散らすのも想定外だった。
いつだって余裕な顔で仕事も恋愛もこなしている。私にとって美香はそう映っていたから。

あまりに混乱した応接室内をなんとかしたくて、自分はここの担当ではないのでもう来社しないから落ち着いて欲しいと伝えると、友藤さんがスパークルとの契約を切ると言い放った。

騒ぎを聞きつけた部長が入ってきたことでなんとか収束してスパークルを後にしたけど、ここに来るときとまた違ったドキドキ感が私を包んでいた。