しかしお金ではなく私の手首を掴んだ友藤さんが、ぐいっと自分の方に引き寄せた。

ちゅ、と唇に柔らかい感触。


「今のがランチ代ってことで…って酷い!そんなゴシゴシ拭く?!」

決め顔で鳥肌モノのセリフを言っている男を睨みながら、袖でキスされた唇を拭う。
酷いのはどっちだ。私はこんなことであなたに堕ちたりしない。絶対に。

「最低だしクズだとは思ってましたけど。見境いなさすぎです」
「今の、少女漫画じゃ真っ赤になるところだと思うんだけど」
「生憎、現実世界で同意なくキスをすれば立派な犯罪ですから。強制わいせつ罪。今から警察に突き出してもいいんですよ?」
「…ごめんなさい」

こういう人。こういう人が嫌だから、私は躍起になって『Dの男』を探しているのだ。

しゅんと俯いて反省した振りをしているが、実際のところは怪しい。
でもこれだけ冷たく言えば2度としてこないだろう。そもそももう2度と一緒にランチなんてごめんだ。

ここ最近なぜかよく誘われてランチに付き合ってしまっているけど、次からは断固断らなければ。むしろ毎回どうしてちゃんと断れなかったんだろう。


「あ、それから」

隣を歩くのも、変な思考に陥りそうになるのも、赤くなりそうな顔を見られるのも嫌でスタスタと先に行っていたけど、ふと思い出して未だにしょんぼりしている友藤さんを振り返った。