残り一口になったフォンダンショコラを食べきってから、言葉を続けた。
「でもそんな話を、万年筆を何年も大切に使ったあとに知ったら…?ちょっとモヤモヤしません?だったら安物のボールペンでもいいから、私だけのために買ったものが欲しいなって…私は思っちゃうんです」
自分でも突拍子もない例えになったのは承知していたが、過去は過去と割り切れない自分の気持ちを少しでも説明しようと思ったら、こんな話になったのだ。
「なんとなくわかるような、わからないような…」
うーん。例えが下手くそ過ぎたらしい。
うまく伝わらないのがもどかしい。
「要するに『自分だけのもの』であってほしいってことです。この万年筆が一時だけでも姉のためのものだったっていうのがモヤモヤするんです」
「お姉さんは受け取ってないし、今は朱音ちゃんのものなのに?」
「だって姉がいらないって言わなければ、私のものではなかったんですよ?」
友藤さんはちょっと考えるように口元に手をやり、足を組んで何かを考えている。
真面目な顔をして目を伏せると、まつ毛が長いのがよく分かる。雰囲気イケメンがちゃんとイケメンに見える瞬間を見つけた。ずっと喋らずに顔伏せとけばいいのに。
そんな姿を遠目から見ていた女性客の2人組が「あの人かっこよくない?」とコソコソ話しているのが耳に入った。
いやいや。職場で人妻ナースと致しちゃうようなクズですよと教えて差し上げたい。



