「…たとえば」

私は首から下げているネームプレートに挿していた万年筆をテーブルの上に置いた。

「万年筆が壊れて書けなくなってしまったら、どうしますか?」

急に話題が逸れたことに首を傾げつつ、コミュニケーション能力の高い友藤さんは嫌な顔ひとつ見せず、少しだけ考えて私の質問に答えた。

「捨てて新しいものに買い替えるかな」

予想通りの回答に頷く。きっと女の子だってこの感覚なんだろうな。

「この万年筆、亡くなった大好きだった祖母が就職祝いにくれたものなんです」

少しだけ驚いた素振りを見せて「あ、じゃあ」と先程の答えを訂正した。

「大事にする。修理に出すとか」

私はまたひとつこくんと頷いた。

「でも実はこの万年筆、過去に祖母が姉に買っていたもので、姉がいらないと言ったから私に回ってきたものなんです。祖母は姉に腕時計を買い直してあげて、ずっと祖母の家で大切に取っておかれた万年筆はその2年後、私の手元にやってきた」
「……」
「祖母のお祝いしようとしてくれた気持ちも嬉しいし、感謝の気持ちもこの万年筆が大切だという気持ちも変わらない。祖母が私を蔑ろにしてこの万年筆を渡したわけじゃないのはわかってる。姉が受け取っていたら、きっと私にも同じように万年筆を用意する気でいたはずだから」

私の話す内容を頭の中で咀嚼しながら考えを巡らせているようで、珍しく眉間に皺が寄っている。