2ヶ月前は頷けなかった言葉に、涙ながらに返事をする。
薬指にはめられた指輪はとてもキレイなはずなのに、涙で滲んでよく見えない。
遊人さんは「ふはっ!チョコついてる!」と吹き出すように笑うと、口の端をぺろりと舐めた。
恥ずかしくて違う意味で涙目で真っ赤になった私にまた笑うと、再び唇が近付いてきて、今度はちゃんと重なる。
やっぱり私は人を見る目がないらしい。
あんなに軽蔑していて大嫌いだったこの人が、私の生涯を共にする旦那様になるだなんて、思ってもみなかった。
この先も無駄にモテるこの人にイライラさせられたりするんだろう。女慣れしている場面に出くわすたび、私は何度だってヤキモチを妬くだろう。
その時は『朱音だけだよ』って何度も言ってもらおう。『俺の奥さんは朱音しかいない』って何度だって言って欲しい。
その度に私もあなただけだって伝えるから。
嬉しそうに、いつもみたいに吹き出すように笑って。それだけで、私の独占欲は満たされる。
軽く押し当てられるだけの口付けから何度も角度を変えながら徐々に深まっていくキスが、ようやくプロポーズに返事をした私へのご褒美だとでもいうように甘い。
キスに没頭する私達の頭上には、祝福するように桜の花びらが風に舞っていた。
end



