「……」

光は一言も言葉を話さず、表情すら変えない。そのまま身支度を済ませ、かばんを手にすると、玄関のドアを開けて外に出た。

冬の六時はまだ太陽が出ていない。おまけに夜のように真っ暗だ。そしてとても寒い。

光は、マフラーなどの防寒具を身に付けていない。否、正確にはマフラーなどを買ってもらえないのが正しい。防寒具がない中、二月の街を歩くのはあまりにも寒い。しかし、光は無表情のまま、ただ歯をガチガチと鳴らしているだけだった。

光はイモーションロックシンドロームを発症している。すでに八年ほどの付き合いになるのだが、感情は全て消えたままだ。

光の両親は、仲がいい夫婦ではなかった。贅沢とお金が好きな母親と、暴力的でパチンコが大好きな父親はいつも喧嘩が絶えず、まだ光の感情があった頃は、いつも続く両親の喧嘩に恐怖を抱いていた。

そんなある時、喧嘩の最中に母親がこう言ったのだ。「光さえできなければ、あんたみたいなパチカス男となんか結婚しなかった」と。そう言って光を見つめる母親の目は、憎しみで満ちていた。