「どうしたんですか?起きちゃったんですか?」
「何か寒いなって思ったら貴方が居なかったので。」


寒いと言うのに、彼もベランダに出てきて、ぴったりと寄り添った。


「手、冷たい。ずっとここに居たんですか?」
「なんだか今日は私が眠れなくて。」


私の手を彼の手が包み込んで、じんわりと温かさが分け与えられる。
冷え性の彼の手が温かく感じるくらいだから、すっかり身体が冷えてしまっていた様だ。


「おいで、紅茶を淹れるから。ちょっとあったまってからなら眠くなるかも。」


リビングまで手を引かれて行くと、彼はすぐに紅茶を用意してくれて、渡されたマグカップからはゆらゆらと湯気が立ち登る。
一口啜ると冷え切った身体が少しずつ温まった。


「今日は満月だったんですね。貴方が起きていなかったら気づきませんでした。」
「起こしてしまってごめんなさい。せっかく今日は早く眠れていたのに……。」
「貴方のおかげで満月が見られたから、そんなに気にしないで。」


彼は柔らかく微笑んで、自分の分のマグカップに口をつけた。


優しい彼の隣で、彼が淹れた紅茶を飲む。
こんなに幸せな事があるだろうか。