飲み会の会費集めだったり、飲み会の出欠をまとめる係だったり、何かと雑用を押し付けられるちょっぴり弱気な彼、眞鍋さんは私の薬指から指輪が消えたことにいち早く気付いた人だ。「あれ、指輪ないですよ? 落としたんですか?」と一緒に探すことまで提案してくれた。勿論、丁重にお断りをした。「いえ、別れたから外しただけです」と。

「ここ、気になってたんです」
「なら、良かったです。あの、沼津さんが好きそうだなって思って、チェックしてたんです」

 ふわりと、どことなく母に似た柔い笑みを浮かべている彼が連れて来てくれたのは、数分前に、今度にしようと諦めたカフェだった。
 ええ。好きです。こういう雰囲気のカフェ。声にはせず、「そうなんですか」と余所行きの笑みを浮かべれば、彼は既に浮かべている笑みに照れくさそうな表情を混ぜた。その些細な変化に気付かないふりをして、オーダーをする。メニュー表を回収した店員が立ち去り、訪れた沈黙。しかし彼は、早々にそれを破った。

「あの、沼津さん」
「はい」
「こういうの、あまり良くないって、分かってるんですけど、」
「……」
「……僕、ずっと、あなたが好きでした。お付き合いしていた方と、別れたばかりなのは、知ってます。でも、僕、後悔したくないので」
「……」
「僕と、付き合って、くれませんか」

 予期せぬ彼からの告白に脳が一時停止するも、隣席からの視線を感じて、我に返った。