「……かっこ悪ぃだろ」
「え」
「そういう弱ぇとこ、見せたくねぇから、優美の前では強がってた」
「……」
「でも、その優美がいなくなるかも、って……離れていくかも、って、思ったら、そんな余裕……なくなった」
「……一和理、」
どこか、照れくさそうに。
けれどもどこか、恥ずかしそうにして。
「……どうやって息してたのかも、分からなくなりかけた……もう、あんな思いはしたくねぇ」
するりと、カクテルグラスに添えていた手に触れた、彼の骨ばった長い指。
ここに飲みに来るのも、カウンターに座るのも、私は初めてではない。けれど、こんな風に、店内で彼が触れてくるのは初めてのことだった。
「……い、おり……?」
驚いて、つい、彼の名を口にしてしまう。
けれども彼は周りを気にする様子もなく、それどころか、存分に甘さを孕ませたその瞳で、ふ、と柔く笑むものだから、どくりと心臓が騒ぎ始めた。
「俺、優美がいねぇと、生きてけねぇよ」
ああ、もう、ほんと。
きみってやつは、ずるい婚約者だ。
ー番外編 終



