「…………きみ、ほんとずるい」


「お待たせしました。ゴールデンデイズです」

 予期せぬ二度目の裏切り行為の自白に、てへぺろが合うのとかずるいんだけど、とパニッくっていれば、ことりと静かに置かれたカクテルグラス。
 淡いオレンジ色から視線をあげれば、危うく通報されかけた、シルバーアッシュのツーブロック。ばつが悪そうに下げられた眉尻で丸玉のピアスが鈍く光った。

「……本人を前にして躊躇なく暴露しまくるシノちゃんの心境が俺は知りてぇよ」
「イオくんの作るお酒は美味しいなぁ~って思ってるよ」
「待って怖い怖い怖い」

 カウンターに座っているのが私達だけなのと、ボックス席への対応をもうひとりいる従業員くんがしているのもあって、マスター、別名【私の婚約者】である彼の口調がくだけたものに変わる。
 んっふっふ。
 至極悪そうな笑い方をしたあと、彼女は手に持っているカクテルグラスを傾けて、くぴりと喉をうねらせた。

「……本当、なの……?」

 これは、もう喋らないぞ、という彼女からの合図なのだろう。
 ちらりとカウンターの向こう側へと視線を向け、問いかける。すると、彼は視線を少し泳がせたあと、「違ぇ、」と呟いた。

「って、言いてぇとこだけど、本当」

 いや違うんかい。
 そんなツッコミを入れたのと同時に、目の前の彼は諦めたように小さく息を吐き出した。