四年付き合っていた恋人に別れを告げ、実家に帰った。
 もちろん、仕事を辞めるつもりはなかったので、有給消化と銘打った期間限定の帰省だったし、我が家に帰ったときも、文字の書かれた切れ端が何枚か落ちていただけで大きな変化はなかった。
 結局、彼の言動に含まれていた意味を知ってしまい、絆されたが最後、惚れたら負けというやつなのだろう。婚約という形で、私達は新たに歩み始めることを決めた。

「嘘でしょ?」
「ワタクシ、嘘なんてつきませぬ」

 そのことを、会社で一番仲の良い、実家にいる間の郵便物回収係を頼まれてくれた御来屋(みくりや)詩乃(しの)に、お礼に夕飯を奢るからとちょっぴりお高いお店に連れ出して報告すれば、彼女は「そっかそっかぁ~」と言ったあと、満腹なお腹を抱えたまま、「行きたいとこあるからちょっち付き合って」と今度は私がそのお店から連れ出された。
 その行き先に、まず驚いて。しかしだからといって騒ぎ立てるほど子供ではないから、平静を装ってカウンターへ詩乃と並んで座り、ふたりしてカクテルだとか可愛らしいものを注文した。本当はテキーラをショットで飲むが好きだけれど、外ではしないと決めている。私も、詩乃も。
 だからそう、慣れないものを口にはすれど、度数の高くないものだというのは分かっているので、酔ってはいない。そもそも私達はザルだ。たまにワクだとも言われる。

優美(ゆみ)の部屋の扉の前で思い詰めたような顔してずっと突っ立てて……見た目派手だしさぁ……いやほんと、よく通報しなかったよね、私」

 だからこそ、彼女が発した言葉に、嘘偽りなんてものはないのだろう。