「いいよ。私がするから」

仕方ない、電車を一本遅らせよう。
家賃も光熱費も払っていない身としては遥に洗い物をさせるわけにはいかない。

「わかった。じゃあ、終わったら一緒に行こう」

「だから、私は電車で」

「荷物は預かっておくからな」
萌夏の言葉を遮り、遥は椅子の上に置かれていたバックを手にした。

「え、いや、待って」
慌てて手を伸ばそうにも泡まみれで動けない。

「おはようございます」

そうこうしているうちに、雪丸さん登場。
泡まみれの手を振りかざす萌夏と、女性もののバックを抱えた遥を不思議そうに見ている。

「朝からにぎやかですね」
なんだか苦笑い。

会社では主任と呼ぶ雪丸さんも、家では遥の秘書。
最近では以前ほどあからさまな敵対心を見せられる事はなくなった。
それでも苦手は苦手。

「そろそろ出られますか?」

「ああ、萌夏の洗い物が終わったら出よう」

あーあ、今日は一緒に行くことになりそうだ。