「はい」

遥の返事とともにドアを開けた。

目に入ってきたのはソファーに向かい合って座る遥と小川。
一瞬目が合った小川は、今にも泣きだしそうな表情に見える。
一方遥はめんどくさそうに雪丸を見た。

「明日の会議資料ならデスクの上だ」
「はい」

「社長からの電話は折り返す」
「はい」

「心配しなくても、30分後には出る」
「はい」

何の説明もしなくても、聞きたいことの答えが返ってくる。
知らない人間から見れば気持ち悪いと思えるくらい遥は人の思いが読めてしまう。
いつものことだが、驚かされるばかりだ。

朝確認を頼んだ会議用の資料を受け取り、もう一度小川の様子を見て部屋をでる。
30分後には次の予定に向かうと言うんだから、説教も長くは続かないだろうとあえて口を挟まなかった。
言いたいことがないわけではないが、今回は遥に任せよう。

小川萌夏。
本当に、変わった子を拾ってきてくれたものだ。
親友でありボスである遥に文句を言うつもりはないが、これ以上の騒動を起こさないでくれればいいと雪丸は祈るしかなかった。