「え?」

ドアを開け、そのまま動けなくなった萌夏。

「おかえり」
「ただ、いま」

「ずいぶん遅いね」
「うん」

子供のころから経営者である父さんや爺さんを見て育った。
自分の感情をさらけ出すことは避けるべきだと教えられてきた。
だからだろうか、感情的になった時にこそ、遥の言葉は冷たくなる。

「いつもこんなに遅いの?」
「いや、まあ」

萌夏が深夜のコンビニでバイトをしているのは知っていた。
賛成ではないが、反対する理由もなくて黙認していたつもりだった。
しかし、

「どうしたの?こんな時間に起きてるなんて」
何とか 流れを変えたい萌夏が、話を別の方向に振ろうとしている。

「雪丸が、急ぎでもない用事で電話してくるから目が覚めたんだ」
「へえー」
何か悟ったような表情。

どうやら、雪丸の目的はこれらしい。
それに、萌夏自身も雪丸の思惑に気づいているみたいだ。

「ずいぶんキレイに化粧するんだな」
「え?」
「普段はほとんど化粧をしないだろ?」
「うん、まあ」

どう見ても、コンビニでバイトをするために整えられた化粧ではない。

「酒・・・飲んでる?」
「ぅうん」
小さな小さな返事。

ここまできて、遥も確信した。
萌夏はコンビニでバイトをしているわけではない。
もっと別のところで、働いているんだ。