結局遥の説教はその後も続き、寝不足のまま朝を迎えることになった。


「おはようございます」
勝手に入ってきた秘書の雪丸さん。

「ああ、おはよう」
遥も目をこすりながら、あくびを嚙み殺す。

「眠そうですね」
「ああ」

何か言いたそうに、遥は雪丸さんを見ている。
萌夏は気づかないふりをして朝食の用意をする。

ああ見えて、遥の洞察力はすごい。
きっと雪丸さんの思惑にも気が付いているはず。

「お前も一緒に食うか?」

今日の朝食はすいとん。
萌夏のおばあちゃんが作っていたおふくろの味。
大鍋で作ったからたくさんあるんだけれど、

「いえ、私は結構です」
「いいから食って行け。旨いんだぞ」

萌夏に食事の追加を指示し、急ぐ風もなくすいとんを食べる遥。
立ったままその様子を見ていた雪丸さんは、遥の態度からすべてを悟ったように、

「何かお手伝いすることがありますか?」
初めて萌夏に向かって話しかけた。

「いえ」
お鍋のすいとんをよそうのに、手伝いなんて必要はない。

「それから、萌夏は今のバイトを辞めさせて昼間の仕事をさせるから、手配を頼む」
「え?」

遥の言葉に萌夏の方が反応してしまった。

「昼間の仕事ですか?」
「ああ」

きっと不満はあるだろうに、反対しない秘書の鏡。

機嫌が悪そうな遥と、黒い空気をまとった雪丸さん。
2人を交互に見ながら、とんでもない人につかまってしまったのかもしれないと萌夏は不安になった。