「おはよう」
「おはよう」

同居を始めて1か月。
朝食と週に何度か一緒に夕食をとる生活が、当たり前になりつつある。
この生活に慣れてはいけないと思いながら、その快適さに萌夏は危機感を感じていた。

「あれ、今日はパン?」
「うん。ダメ?」
「いや」

少しだけ不満そうな遥。
お坊ちゃまは和食の朝食がお好み。
わかってはいるんだけれど・・・

「昨日遅かったのか?」
「う、うん」

昨日のバイトはとても忙しくて帰ってきたのが午前3時を回っていた。
さすがに今朝は起きられなくて、パンと卵とサラダだけの朝食になってしまった。

「バイト先って、どの辺?」

いきなり言われて固まる萌夏。
後ろめたい思いがある分、挙動不審にならないように口数も減ってしまう。

「タクシーで帰っているんだろう?」

「うん、まぁ」

「それってバイトの意味がある?」

さすが、痛いところついてくる。
確かにコンビニでバイトをしていて帰りにタクシーを使ったんでは何も残らない。
でも、実際には違うわけで・・・

萌夏のバイトをコンビニだと思っている遥。
それでも心配してくれるのに、もしクラブでホステスをしているって知ったらどうなるだろう。
萌夏は急に不安になった。

「夜のバイト、辞めれば?」
「え?」

「昼も夜も働いたんじゃいつか体を壊すぞ」
同い年のくせに説教口調。

「うん。でも・・・アパートの頭金がたまったら昼のバイトだけにするつもりだから」
それまでは頑張りたい。

「ふーん」
視線を逸らしパンを頬張る遥の横顔はちょっとだけ不機嫌そうだった。