春、4月。
大学を卒業しアメリカへ留学させたい母さんと自分のもとで育てたい父さんの思惑の中、遥は系列会社の社員として社会人生活をスタートさせた。

遥の実家は日本を代表する企業の一つ、平石財閥の創業者一族。
父さんは総帥としてメイン企業であるHIRAISIの社長をはじめいくつもの会社の経営に携わっている。
その家の長男として育った遙は、子会社の一つ平石建設の営業本部次長。
いくら大学生時代から外部役員として経営に関わってきたとはいえ、新入社員のくせにとんでもなくエラそうな肩書がついている。
そのうえ、来年春の専務就任を見越して秘書までつけられた。

「本当に視察に行くんですか?」

不満気に口を出してきた秘書兼相棒の坂田雪丸(さかたゆきまる)
遥より4つ年上の27歳。

「ああ、自分の目で見たいんだ」
「今更視察をしたところで方針が変わるとは思えませんし、明日からは沖縄に一週間の出張ですよね。仕事は山積みのはずですが?」

せめて秘書は自分で選ぶからと友人である雪丸にしたのはいいが、友人であるがゆえに遠慮がない。

「急ぎの仕事は今夜中に済ませるから、行かせてくれ。どうしても見ておきたいんだ」

「わかりました」
本当は納得なんてしていないくせに、了解したと言ってくれる雪丸。

この後雪丸には別の会議が入っているのを知っていて、遥は一人で会社を出た。