ウワァーン。
廊下から聞こえてきた大地君の泣き声。
何事かと思って出てみると、お母様に抱っこされた大地君が泣きじゃくっている。

「すみませんおばさま、また何かしました?」
礼さんは慌てる様子もなく大地君を受け取った。

「キッチンに置いてあったフランスパンでチャンバラごっこを始めてしまって、お父さんに怒られちゃったのよね」

涙をこすりながらコクンと頷く大地君。

「もー大地、食べ物で遊んじゃダメでしょ」
「ぅん」

「お父さんに叱られて反省したから。ねえ大地?」
「はい、ごめんなさい」

かわいいな。
きっと遥もこんな子供だったんだろうかと、萌夏は微笑んでしまった。


「そうだ萌夏さん、当分一人での外出は禁止ですからね」
「はあ?」

「外にはまだ報道陣も多いし。通院や買い物は私か遥が付き添うから」
「いえ、大丈夫です」
お母様だって遥だって忙しいのに。

「ダメ。また今日みたいに姿が見えなくなったら大変だもの」

これはきっと、今日一日姿を消してみんなに心配をかけたことへの罰なんだ。
であるなら、素直に従うしかない。


「大地―、お風呂に入るぞ」
遠くの方からお父様の声がした。

「はーい」
叱られて泣いていたはずの大地君が嬉しそうに返事をしている。

世の中にはいろんな家族がいるんだと思う。
遥も、礼さんも、大地君もみんな血がつながっているわけではないのに、ちゃんと平石家の家族になっている。
そのことがとても不思議で、その中に自分がいることが萌夏はうれしかった。