「とにかく出るぞ」
「え、どこへ」
行くのと聞きかけて、言葉が止まった。

なぜなら、萌夏は遥に抱きかかえられていた。

「ねえ、やめて。降ろしてよ」
「うるさい、黙ってろ」

遥が萌夏を横抱きに抱え客室のドアを出ると、廊下には雪丸さんと高野さんの姿があった。

え、やだ、
「ねえ、遥。お願い降ろして」

さすがにこのままでは恥ずかしすぎる。
それに、今の萌夏は病人ではない。

「どこにも逃げないから。自分で歩けるから。お願い」
「駄目だ、これ以上言うなら肩に担いでもいいんだぞ」

肩に担ぐって、きっと米俵みたいにって意味よね。
無理無理、そんな事されたら恥ずかしくて死ぬ。

「萌夏ちゃん諦めな、遥の独占欲に火をつけた君が悪いんだ、諦めて運ばれなさい」
高野さんも笑って見ていて、助けてはくれないみたい。


ロビーへ降りるとその場にいた人の視線を浴びた。
幸いなことに、雪丸さんたちが規制してくれたらしくてカメラを持った人の姿はなく、一般客のみだったけれど恥ずかしいことに変わりはない。

「お願い早く行って」
チェックアウトのためかフロントに向かおうとする遥に小さな声でお願いした。

「そうだな、早く帰ろう」
クスッと笑った遥は雪丸さんに何か目配せしてホテルを出た。