「着替え、ここに置きます」
「ああ」

しばらくはが報道陣がうるさいだろうと近くのホテルをとってもらったが、それでもなかなか外に出ることができない遥のために、会社の中にある社長用の仮眠室を開けてもらいひとまず荷物を置いた。

「数日すれば全容も見えてくることでしょう。それまではここに居てください」
「わかった」

ここは社長が忙しい時に仮眠をとったり、いざというときに泊まっている部屋。
重役フロアの奥深くにあって、普段は存在も知られることのない場所だ。
10畳ほどの部屋にデスクとソファー、奥にはシャワールームと小さなベット。
必要最低限のものしかない殺風景な部屋。

「食べ物は冷蔵庫にありますが、必要なものがあればいつでも呼んでください」
「ああ、ありがとう」

雪丸も、しばらくは会社に泊まり込む気だろう。
秘書の鏡のような男だから、今回の件では少なからず責任を感じているはずだ。
雪丸のためにも、平石建設を長い間守り育ててきた社長のためにも、父さんが守る平石財閥のためにもどんなことをしてもこの局面を乗り越えないといけない。