「遥って、ああ見えて子供の頃は病弱でね、病院と縁のキレない子だったらしいわ」
「へー、そうなんですか?」
今の遥からは想像できないけれど。

「彼も複雑な生い立ちを抱えているのよ」
「複雑な生い立ち?」
オウム返しに聞きながら、萌夏は首をかしげた。

恵まれた家に生まれた御曹司に一体どんな生い立ちがあるのか純粋に気になった。
それに、一緒に暮らすからには最低限の情報は承知しておきたいとも思うし、普段から弱音を吐かない遥を知らず知らずのうちに傷つけているのかもしれないと思うと怖くもなった。
しかし、

「あとは、元気になったら本人から聞きなさい」
そう言って、礼さんは口を閉ざした。

どうやらこれ以上は教えてもらえそうにない。
仕方ない、いつか機嫌のいい時の遥に聞いてみよう。
とりあえず、今日はやめた方がよさそうだから。